蛇の嫁になった娘

原文

むかし、蛇の親子が住んでいたんだとさ。

ある日蛇の息子が、せえはら切って(息を荒くして)家のなけえ飛び込んで来たと。

蛇の母親はおどろいて

「にしゃあ(お前は)なにか出き事でもあったんか。ばかにせえはら切って、けえって来たじゃあねえか」

ってゆったと、すると、蛇の息子は、

「おれが行った先に、人間の娘っ子で、うんときれいなのがいた。あれだら、おれの嫁にいいと思って、その娘の着物のすそに針一本さしてきた。それで、その針にいものつるう通してきた。それで途中の所に、いもづるうわかるように、とぎれとぎれに落して来た。」

ってゆうんだと。蛇の母は

「息子おめえも、なかなか頭がいいや、それだら、その娘の家い、いっやんでも(行っても)わかるな」

っていって息子をほめたと。いくんちかして、蛇の親子は人間にばけて、その娘の家にいもずるをたよりに、たづねて行ったと。蛇の母親は娘の家に行くと

「わしらは、親子二人暮しだが息子に嫁えさがしている者ですが、息子にきにいった嫁さんがいると聞いたで、嫁もらいに来た」

ってゆうと、娘の家では一口返事で、ばけて来た蛇の息子に娘え嫁にやることにしたんだとさ。

蛇のうちには、銭がうんとあるんで、嫁に来た娘は、うんと幸に暮すことができたんだとさ。(大胡町)

酒井正保『前橋とその周辺の民話』
(群馬県文化振興会)より