大藤になった大蛇

原文

ある日の夜、一人で住んでいる茂作の家の戸を叩くものがいた。恐る恐る戸を開けると、そこに一人旅の女が疲れ果てた姿で立っている。茂作はやさしくその女を招き入れ、お粥を食べさせて休ませた。

一夜明けて茂作がいい匂いで目を覚ますと、すでに朝食ができている。泊めていただいたお礼だと言って野良仕事も手伝ってくれる。そうこうしているうちに日にちは経つが、一向に女は旅に出る気配もなく、まめに精を出して野良仕事や家事をこなしていた。やがて、二人は結婚して子供が生まれ、幸せな日々が続いた。

そして、二、三年の時が流れたある夕暮れのことであった。野良仕事から帰った茂作の目に異様な光景が映った。そこには子供と寝ている大蛇の姿があった。子供をあやしながら安心してつい眠ってしまったのであろう、妻は人間を忘れて本性を現してしまったのである。

茂作は急いで子供を抱き上げると一目散に家を飛び出した。しばらくして、目を覚ました大蛇は火のような赤い舌を出して花岡あたりまで二人を追いかけて来た。そして、恥ずかしさと悔しさに身をよじらせながら二人に抱きつき、そのまま大きな藤の木になってしまった。(花岡・『子どもが書いた ふるさとの伝説集』)

『高根沢町史 民俗編』より