大藤になった大蛇

栃木県塩谷郡高根沢町

ある夜、一人住まいの茂作の家の戸を叩く者があり、開けると一人の旅の女が疲れ果てて立っていた。茂作はやさしく招いて、女にお粥を食べさせ休ませた。翌朝茂作が起きると、女がおいしい朝食を作っていてくれ、そのまま野良仕事も手伝ってくれた。

女は旅に出る様子もなく月日は流れ、二人は結婚して子供も生まれた。ところが、二、三年したころ、茂作は野良仕事から帰って異様な光景を目にしてしまった。そこには子どもと寝ている大蛇の姿があったのだ。子どもをあやしているうちに自分も寝てしまい、妻は本性を現してしまったのである。

茂作が子どもを抱いて一目散に家を飛び出すと、目を覚ました大蛇が火のような赤い舌を出して追って来た。そして、花岡辺りまで追ってきて、恥ずかしさと悔しさに身をよじらせながら、二人に抱きつき、そのまま大きな藤の木になってしまった。

『高根沢町史 民俗編』より要約

花岡にそういった藤があるのかどうかは現状不明。町の文化財などには見えない。しかし、蛇女房の話型からの展開という予想外の一話である。蛇女房譚は、蛇女房は去り、人の父と子が残る、という結末が必然という話なのだが、この高根沢の話では蛇女房が父子もろともに藤の木になってしまっている。

蛇女房の一種というよりも、樹木の由来を説くのに蛇女房の話を持ってきた、と見るべきだろうか。この藤の木(現存するかどうかわからないが)にまつわるどのような信仰があったのか、と併せみたいものだが、今のところ関連する話は見えない。