文谷の白蛇

原文

むかしむかし。文谷に豪商と呼ばれる米問屋があったと。

米を農家から買い付けては、近在の商人に高い値段で売っていたと。

そんなある夏、北東の風が吹く寒い年のこと、夏でも暖をとらなくてはいられなかったと。

そんな訳で、稲の実入りが悪くて、農家の人は年貢米を納めるだけで精一杯であったと。

米問屋は、一俵でも二俵でも買いあさっては、米がないことに目を付け、べらぼうな値段で売っていたと。

次の年も、また次の年も不作でナ、さすがの米問屋も、米がないことには儲けが出てこない、だんだんお金に困るようになってきたと。

ある日のこと、村の人二人を誘って江戸に稼ぎに行ったと。

どこかに銭儲けはないものかと探してもなかったと。

そのうちに路銀がなくなってしまったと。

米問屋は困り果ててナ、

「家に帰るのにも、銭がなければ帰れないしなぁ。」

そう云って、村人に今夜泥棒に入ることを告げたと。

そうして、まんまと銭と衣類などを盗み出したと。

家に帰る途中でケチクソな米問屋はナ、分け前をやるのが惜しくなっちゃってな、二人を殺してしまったと。

さて、家に帰った主人はあんまり話をしなくなっていたと。

家の人が案じてな、どうかしたかと聞いても、なんでもないって云うばかりだったと。

そんなある日のこと、仕事が終わって寝るべとすると、布団の上に、白蛇が二匹でもつれ合っていたんだと。

ビックリした主人は慌てて外に放り出したと。

また次の晩も寝るべとすると、布団の上に、白蛇が二匹で絡み合っているんだと。

そういうことが一週間くらい続いたかな。

そしたら、ピターっと白蛇が出なくなったと。

主人が安堵していると、こんどは夢の中に白蛇が現れてナ、こちらをグッと見据えて、今にも噛み付きそうな顔をして見ているんだと。

ワァーと大きな声を出して目を覚ますと、脂汗びっしょりかいでいたと。

それから毎晩のように夢の中に白蛇が現れては、赤いべろをペロペロっと出しながら、主人を睨みつけているんだと。

そんなことがひと月も続くと、さすがの主人もゲッソリと痩せこけてしまったと。

心配した女将さんは、何でもよく当たると云う行者にみてもらったと。

そしたら、殺められた人の御霊が成仏できずに、白蛇となって出てくるのだと云う。

そこで二人は社を建て、お地蔵様を安置し、朝に晩にお参りして、自分の罪の深さを詫びたと。そうしたら、白蛇は出なくなったと。

それでも納得ができない主人は、頭を丸めて托鉢の旅に出たんだとサ。 おしまい

採話 鈴木諭

民話きじばとの会『いちかいの民話』より