こがら溜の大蛇

原文

昔あったと。大谷津地区の小河原溜と云う溜め池があってナ、そこに、大蛇が住んで居るという噂があったと。

村の人達はおっかながって側に近よらなかったと。

この大谷津には、仲の良い二人の若者がいたと。

二人とも大尽さまの倅で、小さい時から兄弟のようにして遊んでたと。

ある日、村の中で常会があってナ、二人の若者もそこにいたんだが、茶飲み話の後、年寄り達の話は大蛇の話になったんだと。

村の人達は触らぬ神に祟りなしだと云って話をしているうちに、一人去り、二人去り、そのうち皆んな居なくなってしまったと。

それを聞いていた二人の若者がナ、

「なんであんなにおっかながんだんべ。」

それならば、俺たちで退治してやるべとなったと。

血気盛んな二人のことだ、面白半分も手伝って、大蛇を退治しに行くことになったと。

二日後、鎌やこん棒を持って溜め池に行ってナ、草むらに息を殺して身を潜めていたと。

すると、それまで静かっだった水面が、グワッグワッと持ちあがったかと思ったら、見たことも無いような、でっかいヘビが鎌首をもたげて、水から頭を出してきたと。そうしたかと思ったら、悠々と岸に泳いで来てナ、側にある松の木に、ズルズルって登って行ったと。

そうして、若者が息を潜めて見ていると、なんと若者の前で気持ちよさそうに、大蛇は昼寝を始めたんだと。「しめた仕留めるのは今だ!。」

二人の若者は襲いかかってナ、大蛇の首を切り落としたと。

どっと血が吹き出してきて、見る見るうちに池は真っ赤に染まったと。

意気揚々と帰って来た二人は、家の者に手柄話をする訳でもなく、具合が悪いと云って寝込んでしまったと。

親は一生懸命手当したが、手当の甲斐もなく死んでしまったと。

それから二人の家も、だんだん貧しくなっていったと。

村の人たちは、大蛇退治などしなければ良かったのにと噂してたと。

「これはきっと大蛇様の祟りじゃ、そうだ、そうだ祟りじゃ。」

口々にそう云って、大蛇の祟りを恐れた村ではナ、溜め池の側で大蛇の供養をしたと。

それ以来村は平和に暮らしたとサ、今でもゴルフ場の下には溜め池があってナ、どんな日照りの時でも、水は枯れずに周りの田畑を潤しているんだとサ。 おしまい

採話 軽部悦子

民話きじばとの会『いちかいの民話』より