むかし、岡村の名主さまの家の庭に、夕立の雷雨の雹にまじって、カッタンと音がして、堅い角のような形のものが降りました。
名主さまの家では、誰かが牛の角でも投げすてたのだろうと思っていました。
そして、しばらく過ぎてから夕立がありました。すると、今度は竜の頭のような物が、ドッスンと音をたてて降って来ました。
名主さまは驚いて拾いあげて見ました。前に降った角の直径は四センチ、長さが十五センチほどの大きさで二本ありました。竜の頭のような骨は二十センチぐらいありました。
名主さまは、角と骨を付けて見て、これは小鹿の骨かなとも思いました。
何はともあれ、「このような物が、庭先に降って来たことは、運が向いてくる証拠だろう。」ということで、桐の箱を作って、その中に入れ大事にしまい込みました。
やがて、文明開化の明治の頃になりました。そして、東京に勧業博覧会が開かれることになりました。そこには、世の中に珍しい物を展示するということになりました。
この名主さまは、この話をきいて、あの変な物を出品してみようと思い、お寺の和尚さんに見てもらいました。
明治十五年旧暦の七月十日、明本寺第二十一世、大能和尚の鑑定による「竜頭尊」と名づけ、その説明には、
「その根源を知らずといえども、皆因果により業を生ずるものなり。竜頭尊を信仰すれば、福を護り、難病は平癒(治ること)す。」という折紙をいただきました。
このようにして、「竜頭の角」「非売品」で出品をしましたところ、大勢の見物客は、
「あれ、あれ、角を生やしたものは、竜頭の角だって、ほんとかね。」と言って、大へんな人気だったということです。