釜が淵

栃木県鹿沼市

昔、相思相愛の釜之助とお藤が、山へきのことりに出かけたが、深い淵を通りかかったとき、釜之助が足を滑らせ、淵に落ちてしまった。お藤は狂ったように釜之助を探し求めたが、見つかることはなかった。

そして、お藤は淵を覗いているうちに、水面に映る自分の姿が竜と化しているのに気付き、驚いて釜之助の後を追って自分も淵に飛び込んでしまった。後日、村人が淵を通りかかると、二匹の竜がからみあっているのが見られたという。淵に石や汚物を投げ入れると、竜が怒って大雨を降らせるとも言われた。

『粟野町誌 粟野の民俗』より要約

永野川の上流部で、滝壺であるようだ。雨乞いに草鞋を投げ込んだともいう。単純に見たら、男を水に失った女の残念が竜蛇となった、という話だが、気になるのはその名前だ。

釜が淵はあちこちにあり、その形状を釜と見るからそういうのだが、落ちた男の名が釜之助であり、ここでは釜之助が落ちた淵だから釜が淵というようになった、といっているのだと思う。

そして、女の名はお藤なのだが、これはあきらかに淵を意識した名だ。なぜ、男女に淵の暗示が分かれているのだろう。滝壺であるとすると、そういった場所には雌雄の役割を暗示する何かがあるのだろうか(滝が雄で、淵が雌、というような)。

ちょっと滝壺ないし淵で、雌雄の構成をもつ類例が思いつかないので、今はその点指摘するのみだが、そういった話が他にも出てくるようなら参照されることになるだろう。