竜の頭と竜の尾塚

栃木県鹿沼市

昔、北半田や深程に大干ばつがあり、神仏に祈っても降雨がなかった。そんな時、大きな竜(たつ)が現れ、わずかに流れる小倉川の水を飲んでしまった。すると、突然水神様の祠から矢が飛び出し、竜の目を射抜いた。竜は暴れまわり、程無く死んだという。

竜の頭は山と化し、尾は村人たちに切り取られ、塚に埋められ、供養された。そうしたところ、雨が降り出したのだという。この尾を埋めた塚を「竜の尾塚」といい、最近まで残っていた。

深程の竜の頭(たつの頭)では次のようにも伝える。干ばつの際に雨乞いをしたのだが、それで大夕立となり、川が溢れたのだという。そこに大竜が現れ、川の水を飲み干そうとした。

そして、これを見ていたお坊さんが弓矢で大竜を射殺し、村に平和が戻ったのだそうな。竜の頭は塚に葬られ供養され、これを竜の頭といった。そこに竜の権現様が祀られていたという。

『粟野町誌 粟野の民俗』より要約

深程・北半田あたりの伝説。小倉川というのは思川のこと。旱魃の際に竜が現れ、わずかな水を飲み干そうとした、というのも謎だが、水神がそれを討つというのも中々難しい話だ。

深程の竜の頭という地の信仰は過去かなり盛んだったようで、同資料「信仰あれこれ」の「たたり」の稿にも記載がある。かつては色々な願を叶えてくれる竜(たつ)の権現様だったが、その信仰が無くなったので、同地は「祟る場所」という話に変わっていったのだ、という「零落した聖地」の事例として採録されている。権現様は現在は近隣の小松神社に合祀されているそうな。