白い蛇

原文

ある年の暮れ、正月の餅を(勿論旧暦で十二月三十日ときまっていた)伜夫婦が搗いていた。嫁さんが捏取りをしていたが、臼の中のキッソゲが爪にささったので、そのキッソゲを口にくわえて取り除いた。それが婿の眼に、臼の中の餅をつまみ食いしたように見えたので、「このアマ、神様に上げないうちにクイアガル」といって、手にもった杵で頭を殴ったので、嫁はトウテキ(直ぐ)に死んでしまったが、そのいまわの際に、この家の者を皆んなとり殺してやると、うらめしそうに息を引き取ったというのである。それからこの家の梁に白い蛇が出て這ったりからみつくのをみかけるようになった。その噂が、村中に拡がる頃から、怨霊の祟りは恐ろしく、ウチゴには、次ぎから次ぎに不幸が重なり、とうとう没落してしまったということである。(『民間伝承』・「見聞覚書ー栃木県下都賀郡赤津村ー」二十二巻九号、昭和三十三年十月より)

『都賀町史 民俗編』より