白い蛇 栃木県栃木市 ある年の暮れ、正月の餅を搗く夫婦があった。嫁さんが捏取りをしていたが、臼の中のキッソゲが爪にささったので、そのキッソゲを口にくわえて取り除いた。それをつまみ食いに見間違った婿が、逆上して杵で嫁の頭を殴ったので、嫁は死んでしまった。 そのいまわの際に、嫁はこの家の者を皆とり殺してやる、と恨み死んだ。それからこの家の梁には白い蛇が這うようになり、噂は村中に広がった。そして、怨霊の祟りは恐ろしく、ウチゴには不幸が重なり没落してしまった。 『都賀町史 民俗編』より要約 赤津村の見聞覚書とあるので、今の栃木都賀JCTの北側あたりの話だろう。江戸に一緒に稼ぎに行った仲間を殺してしまった市貝の文谷の米問屋の話のように(「文谷の白蛇」)、亡き人の残念が蛇となって祟る筋が野州に多い、というなら典型の筋といえる。 概ねこういった話は、家の没落があり、遡って外部でその原因が創作されるので、つまみ食いで殴り殺された嫁、というのはそうであってもなくてもよい、というほどのものだろう。しかし、これが正月餅に関係している、という点は気になる。 遠く西伊豆の地にも、餅搗きの時に主人に殺された女中の小娘が白蛇となって出るという話があるが(「餅と蛇」)、こういった話は餅と白蛇の関係を考える上で外延となるものである可能性がある(その旧家には餅の禁忌があった、など)。 これらの話は餅が白蛇となっているわけではなないのだが、似たような餅の禁忌を語る土地で、その白蛇が餅の変化であるように語る例がある(「餅食わず」)。 ツイート