出石丸

栃木県足利市

迫間町の西浦というところの田んぼの中に、一本の松が立っている。松の北に、ひと抱え余りの石があり、その石の上に土砂がかぶさって小さな丘のようになっている。この石は幾度となく取り除かれようとしたが、いくら掘っても掘りきれず、出石丸と呼ばれるようになった。

松のほうは黒松で、土地の古老によると、枯れてしまったかと思うとまた生き返る、ということを何回も繰り返してきた松といい、大きさも変わらないのだという。また、その松の根元には、岩石の中央を長方形に刻んだものが祀られていて、弁天さまと呼ばれている。

この石もどかそうと掘られたが、やはり骨折り損に終わったそうな。その際に土中から文久銭や天保銭など、五種類の古銭が出てきたそうで、これは弁天さまのお賽銭と見られている。そのためか、ここには宝物を入れた瓶が埋められている、との伝説もあり、弁天さまは「かめ弁天」とも呼ばれるそうな。

なお、この弁天さまのそばに、死んだ蛇を置いておくと、翌日には影も形もなくなっているので、子供たちは死んでいる蛇を見つけると、わざわざ、ここまで捨てにきたということだ。(迫間町)

台一雄『足利の伝説』(岩下書店)より要約

迫間町の自治会館があるあたりだろうが(国道50号線の北とあるが、これは現在の県道67号線になる)、現在その大石と松がどうなったのかは不明。話の様子からすると要石のようだが、それが(おそらくつながった岩石ということだろう)弁天さんだったという面白い話だ。

しかも、その松が何度も生き返る松だった、というのは、最後段の弁天さんに死んだ蛇を置くと(おそらく蘇って)蛇が消えた、という話と対応していると思われ、すなわち松を蛇の化身と見ていた話でもあるのじゃないかと思われる。