長柄稲荷

原文

むかしむかし、宇都宮の下町にある栄町に、古い長屋があったと。

長屋にはな、大工や壁ぬり職人や、魚屋、うどん屋など、いろんな人たちが住んでいたんだそうだ。その中に山口宇堂という尺八の師匠もいたんだよ。

ある時、二荒山神社の境内にな、大がかりな見世物小屋がかかってよ、虎や象の珍しい動物や、曲芸をする犬や猿、人間のことばをしゃべる鳥などがきたんだそうだが、なかでも一番の呼び物は、三メートルもあるまっ白いヘビだったと。

「長ーいヘビって、どのれっくらい太いんだんべ、早く見てえもんだな。」

小屋の前は、毎日大ぜいの見物人の行列ができて大にぎわいだったと。

けんどな、見世物小屋が終わる頃、一番人気の白ヘビが、どうしたわけか弱ってしまってな、今にも死にそうになったんで、二荒山神社のうら山にすててしまったんだと。

ところが、何と白ヘビは山の中で元気をとりもどしてな、宇都宮の下町あたりをはい回るようになったと。

そのうち、長屋の山口師匠が尺八を吹くとな、必ずその音色にさそわれるように、師匠の小さな庭に現れるようになったんだと。尺八の弟子たちは、毎晩のように姿を見せる白ヘビを気味悪がってよ、とうとう殺してしまったと。

「その白ヘビの皮をわしにおくれ。」

近所の大工さんが、殺されたヘビの皮をもらってな、三味線屋に売ろうとしたんだが、油が強すぎて使いものにならないといわれたんでな、家の片すみにほうり投げておいたんだと。

それからしばらくたったある日、大工さんの子どもの火遊びから、火事になってな、栄町ばかりか、まわりの町までも焼きつくす大火事になったんだと。そしてよ、山口師匠の一家が、はやり病にかかってな、家族みんなが死に絶えてしまったんだと。

その後、町内の人びとが集まってな、火事で命をなくした人たちの供養をしたところ、ヘビのゆうれいが現れたと。

「今までの大火事や、はやり病のおおかない出来ごとはよ、白ヘビのたたりだったに違いない。」

と、みんなはヘビをまつる「長柄稲荷」を建ててな、火事を防ぐ神様としてたいせつに守り続けてきたんだと。

今でもな、栄町には「長柄稲荷」がのこっているんだよ。

これでおしまい。(再話/仁平恵美子)

 

◆参考文献/「宇都宮の民話」宇都宮市教育委員会

かまどの会『親と子で語る うつのみやの民話』
(随想舎)より