長柄稲荷

栃木県宇都宮市

ある時、二荒山神社に大掛かりな見世物小屋がかかり、色々と珍妙なものがやってきたが、一番の呼び物は、三メートルもある白蛇であった。ところがこの人気の白蛇は小屋の終わる頃には、すっかり弱ってしまい、神社の裏山に捨てていかれてしまった。

これが幸いし、白蛇は山の中で元気を取り戻し、宇都宮の下町辺りを這いまわるようになった。ことに、栄町に古い長屋があっていろいろの職能の人が住んでいたが、内の尺八の師匠の山口宇堂の吹く尺八の音色に誘われて長屋に来るようになったという。

しかし、白蛇を気味悪がった宇堂の弟子たちが、この白蛇を殺してしまった。さらに、その皮を大工が三味線屋に売ろうとしたが、油が強すぎるといって断られ、放置される始末であったという。そのような中、大工の子のいたずらから出た火が大火事を呼び、周りの町まで焼きつくす事態となった。

続いては、山口宇堂の一家がはやり病で死に絶えるという不幸が起こった。白蛇の幽霊が出たとの話もあり、人々は蛇の崇りであると考え、これを祀る長柄稲荷を建立した。

かまどの会『親と子で語る うつのみやの民話』
(随想舎)より要約

宇都宮市栄町に今もあると思われる稲荷の話。市のサイトなどに写真が見える。蛇が出たので稲荷を祀る、という話は各所に散見される。宇賀神を通して直に混合している例もままある。

その根本的な理由、ということを言い出すと難事なのだが、ここではわかりやすい話の一例として、他から参照するためにあげた。「長柄」という名も印象的な話だ。それが蛇を指しているのかどうか定かではないが、もしそうなら「蛇稲荷」ということになる。