青大将のむくい

原文

昔、いつの頃か分らないが、静安寺山の麓に貧しい老婆が住んでいた。ある日、お湯を沸かそうとへっつい(かまど)の前で火を焚いていると、三尺ばかりの青大将(蛇)が出て来て、へっついの前にあるねずみの穴にニョロニョロと入って行った。

老婆はびっくりして、どうしたらよかっぺと、心配していると、運よく隣の老婆が来合わせたので、今の蛇のことを話すと、隣の老婆は平気で「なぁにそんなこと驚くことはねえ。ぐらぐら沸いている湯を、穴の口から入れてやればいい。蛇は熱いので這い出して、逃げっから」と言った。

なるほどと、熱い湯を青大将の入った穴の口から流し込んだ。すると案の定青大将は出て来たが、身体はさんざんにただれていたので、間もなく死んでしまった。老婆は死骸をそのまま捨てた。

翌日、隣の老婆が急病にかかり、熱い熱いとしきりに苦しんでいた。それで山伏を呼んで祈祷してもらうと、蛇の霊が病人に乗り移って「俺は昨日田に行く途中、子どもに苦しめられ、へっついの下に逃げ込んだのに、煮殺すとはなんという悪人だ。いかに祈っても、俺の執念で殺してみせる」と呼びながら、間もなく息がたえてしまった。見ると老婆の身体は、昨日の蛇と同じように、ところどころ焼けただれていた。

村人たちは、この蛇は田の神が来臨して、まだ春の田仕事が始まらないので、家で一休みしていた化身(神のうまれかわり)だったのだと言って、おそれたという。

大録義行『那珂の伝説 上』
(筑波書林)より