青大将のむくい

茨城県那珂市

昔、静安寺山の麓に貧しい老婆がいた。湯を沸かそうと火を焚いていると、三尺ほどの青大将が来て、へっつい(かまど)の前のネズミ穴に入って行った。老婆は驚いてどうしたものかと困惑したが、そこへ隣の老婆が来て、驚くことじゃない、穴から熱湯を入れてやればいい、と言って、そのようにした。

すると青大将は穴から出てきたが、熱湯でただれて間もなく死んでしまったが、翌日から隣の老婆が急病にかかった。老婆が熱い熱いと苦しむので、山伏に見てもらうと、蛇が出てきて、田に行く途中子どもらに苦しめられ、へっついの穴に隠れたところを煮殺された、その恨みだ、と言った。

隣の老婆は間もなく息絶え、その身体は蛇のように焼けただれていたという。村人たちは田の神が蛇に化身して来臨し、まだ田仕事が始まらないので一休みしていたところだったのだろうと噂し、畏れたという。

大録義行『那珂の伝説 上』
(筑波書林)より要約

静安寺山は不明だが、静神社境内の寺に静安寺とあったといい、静のほうの話ということと思われる。しかし、この話は『古今著聞集』巻第二十魚蟲禽獣第三十「建保の此北小路堀河辺の女熱湯を注ぎて蛇を殺し祟に依りて死する事」にほぼ同じである。

『著聞集』のほうには蛇を田の神とする云々という記述はなく、単に蛇に湯を注いだ女が翌日同時刻に蛇の恨みでただれて死んだというほどの話。つまり、田の神の話としたところが付加要素となるだろう。

大録義行『那珂の伝説』には、このような中世の説話集である『著聞集』に見る話を常州那珂地方の昔話として採録しているものがいくつかある。上に見るように、『著聞集』上でそれが常陸の話だった、ということもない。

なぜこのような話が那珂にあったのかは不明だが、正しく土地の人の口承にあったならば、いつか昔の物知りが『著聞集』から引いた話が土地の伝説と化した例、となるかもしれない。