村人の難儀を救った鷹

原文

昔、横堀村と堤村の境に阿迦沼という池があった。そこに胴の太さ一尋(約二メートル)余り、耳の生えた大蛇が棲んでいて、時々現れては、村人を悩ましていた。この蛇を一目見た者は、たちまち枕から頭も上らぬ病いに取りつかれるという。蛇が現れたとの噂が立てば、村中の家々では、戸を閉ざし家の中に隠れる始末であった。

いつの頃からか村で、もと武家で山崎大和丞某という者が、一羽の鷹を飼っていた。ある日のこと、蛇が出てきて、なんと思ったか、鷹を目がけて口からするすると赤い炎を出しながら這って行った。

鷹は身を細め、来たらば打ちかかろうと待っていた。蛇は鷹の入った籠にくるくると巻きついたが、鷹は平気な顔をして相手にならない。蛇がそれではと籠の中に首を突き入れると、鷹は飛び上ってその首を食い切り、殺してしまった。それから村にはなんの災いもなくなり、村人は枕を高くして眠ることができたという。

大録義行『那珂の伝説 上』
(筑波書林)より