昔、麻生の黒駒池と赤須の大膳池に、それぞれ大蛇がおり、夫婦だったらしく、二つの池を行ったり来たりしていたという。雨の後などには、稲や草が倒れ伏していることがしばしばあったそうな。当時の大膳池は老杉巨松がそびえ、篠竹が生い茂る人を寄せ付けぬ雰囲気の池だった。
ある時、芝宿の髪床の主人が笹藪を分け入って大膳池で釣りをし、大変な釣果を得た。喜び勇んで牛堀の髪床の主人に自慢し、翌日は二人で釣りに行った。ところがこの日の浮子はぴくりとも動かない。牛堀の主人にはかついだのかといわれる始末だったが、その時、池の中央が大きく盛り上がった。
池からは大蛇が現れ、真赤な眼を爛々と光らせ二人を睨んだのだ。二人は血の気も失せて、命からがら逃げ帰ったが、芝宿の主人は高熱を出し死んでしまい、牛堀の主人もブラブラ病となり、一年余りでやはりあの世へ行ってしまった。