稲田姫の大蛇退治

茨城県笠間市

昔、真壁郡の山田に山田の大蛇(おろち)という大盗賊がおり、物や婦女を盗るのでみな恐れていた。しかし、これを退治する者がなかったので、近隣には美しい女がいなくなり、大蛇は稲田の稲田姫に目を付けた。

大蛇は懸賞金をかけて姫を連れてこさせようともしたが、館は厳重で近づけない。そこで、女を一人館へ忍ばせ、館の家来たちを酔わせて、姫を連れ出そうとしたが、姫は動かない。そこで合図の笛を吹くと、大蛇自らが館に乗り込んできた。

ところが、稲田姫はすっくと立ち上がるや宝の刀を抜いて、一刀のもとに大蛇を切り殺してしまった。この姫が、稲田神社に祭神として祀られている稲田姫だったという。

笠間文化財愛護協会『笠間市の昔ばなし』
(筑波書林)より要約

稲田には式内社にして名神大社であった稲田神社が鎮座される。奇稻田姫之命を祀るが、周辺出雲の神を祭る古社が並び、確かにその信仰をもつ人々が古代に蟠踞したのだろうと考えられている。

もっとも、このあたりの地域では、もっと北の八溝山の岩嶽丸にしても大蟹だの竜蛇だのの怪物であることもあれば、山賊であるとも国栖を思わせる鬼神であるともなるので、もとより連続したイメージにはなるのだが(あるいは夜刀神もそうだ)。

ことほど左様に、「常陸の稲田姫の社」といっても実に振幅大きくいろいろの話がある。八岐大蛇の焼き直しだ、で済むとは思われず、ここでの蛇とは何なのか、というのもよくよく考える必要があるだろう。