五浦岬には五つの浦(入り江)が続いており、無数の海蝕洞穴があるが、そのうち椿磯に「チャンポン」と呼ばれる深い洞穴がある。満潮時に海水が流れ込むと、音が反響してチャンポン、チャンポンと聞こえるのでそういうという。また、この音が鼓を打つ音のようだとして、鐘鼓洞ともいう。
昔、大津の浜に伍助という漁師がおり、五浦に来た折にチャンポン洞穴に入った。すると奥には姫君がおり、侍女と機を織っていた。驚く伍助を姫は招きもてなしてくれたが、帰りには、決してこの事を口外しないように、といった。
ところが、伍助は黙っていることができず、友達に話し、確かめようと二人で再び洞穴に入った。すると、中に入った途端に洞穴が崩れ落ち、二人は岩石の下敷きになって死んでしまったそうな。
震災の津波で流失し、また再建された岡倉天心の六角堂で知られる五浦(いづら)には、このような機織姫の洞穴があったという。鐘(鉦)鼓洞は今もあるようだが、現状がどのようかは不明。伝説の通りなら、奥は崩れているのだろう。
水戸のほうには、ヨキ(斧)を落としたら、姫が出てきて金の斧を差し出したなどというイソップのような話もあるが(「よき沼」)、常北から磐州にかけて増える竜宮の機織姫の話というのは、このように「話したら命はない」という点が重要となるものが主流だ。
すなわち、福を授かる、というモチーフがあまりないところが特徴的といえる。しかし、さらに北に行って陸前の海のほうはというと、また竜宮童子のような福を授かる話が増えてくるのであり、そのあたりのグラデーションには興味深いものがあるかもしれない。