おりわ峠

原文

ごぜさんが、その峠へかかったとき、休んだんですと。たいした松の根かなんかへ腰をおろして休んだんですと。そしたら、それが大蛇だったんですと。山をひと回りして、山を噴火させっぺと思っていた大蛇なんですと。

大蛇が、

「もし、ごぜさん。あんたは俺のことなんだと思った。あんたは目が見えねえがら、松の根かなんかだと思って腰かけだがしんねえが、俺は大蛇だ。」

と、

「この山ひと周り回って俺が力でこの山を噴火させっぺと思っていっとこなんだけんど、これをお前、下さ、さがって村人に話したら、お前の命はなくなってしまうぞ。絶対に口外してはなんねえぞ。」

そしたら、その人もたまげちゃって、松の木かなんかと思って腰かけたのが蛇(じゃ)だったんでね。下さ、さがってきて、

「いや、実はこういうわけで、今にこの山が噴火したら湖になっちまあがら皆、気つけろ。」

って話した。そしたら、そのごぜさんは、やっぱりそのまま命とられっちゃった。

だけど、ごぜさんがそういう話したために、村の人は皆、今度、総出で蛇狩りしたために、噴火しないで助かった。

話者 菅野ミツイ 安良川

 

(注)つるの湯、ぬる湯温泉、おりわ峠=いづれも福島県にある。話者は同県生まれである。

高萩市教育委員会『高萩の昔話と伝説』より