梅屋敷の大猫

原文

梅屋敷には昔、土井さんのお妾さんが囲われていた。あるとき、お殿さまがそのお妾さんの所へ訪ねてきて、観梅をやってお酒を飲んだりしていた。で、家来の者は、お殿さまとお妾さんだけをおいて、下男のおじいさん一人を残して、みんな遠ざかっていた。

そいで、お殿さまが酒を飲んでごっそうになっていたところが、夕方になったならば、天井でものすごい音がした。ドタンバタンってすごい音がしはじめたんで、「なにごとぞ」ってんで天井をみたけれども、天井では人間がかけまわっているような大変な音がした。

お妾さんは非常に猫が好きで、いっぱい飼っていて、その一番かわいがっていた大猫の声が、ときどき天井ですごい勢いでする。あっちへ吹っとび、こっちへ吹っとび、猫の声がするし、バタンコン、バタンコンすごい音がする。「これはただごとではない」ってんで、お殿さまとお妾さんは庭に出て、物音の方をながめていた。じいやもでてきて、「なにごとだろう」とわきへかしずいておそるおそる音の方をみていた。

しばらくすっと、大変な暴れ方をしていたんだけども止んで、そろそろ日暮れが近づいたので、お駕篭でもってお殿さまのお迎えがやってきた。「いったい天井で何があったんだろう」ってわけで、家来が龕燈の明りをつけて天井裏を捜してまわったところ、大きな、大きな大蛇が、猫をしめつけたまま、猫は大蛇の首っ玉へ食いついたまま、死んでいた。

大蛇はお殿さまのことを食べようとして、天井からうかがっていたのを、お妾さんの猫がやっつけてくれた。それでお殿さまは大変その猫に感謝して、猫の塚を掘って厚く葬った。それから、大蛇はけしからないってんで、渡良瀬川に行って流しちゃったってんだ。 話者 川島恂二

『古河市史 民俗編』より