カエルの娘

原文

昔々、

沼倉にカエルのお大尽が住んでいたったと。

蔵が三つもあって、大勢の使用人もいたもんだから、このお大尽のカエルはいつも威張っていたったと。

そのお大尽のカエルには一人娘がいたったと。

気ままな娘でな、年頃になってあっちこっちから縁談が来るんだげんと

「その家とは釣りあわねがら断ってけろ」

「そんな家から婿とりたくね。断ってけろ」

「あんな家の息子は気にらね。断ってけろ」

と片っ端から断ってしまうもんだから、さすがのお大尽のカエルも困っちまった。

あちこちの仲人を頼んで婿探しをしたと。ある仲人が

「カエルの中に釣りあう婿がいねんであれば、クジラはなじょったべ」

って話を持ってきたれば

「あんな図体ばかり大きい男はやんだ」

と断っちまったと。また別の仲人が

「ほんでは鯛はなじょったべ。なあなかの器量よしだぞ」

って話を持ってきたれば

「やんだ、あんな男。いっつも酒飲んだような赤い顔してっからやんだ」

と断っちまったと。

なんぼ話を持ってきても、難癖をつけては断ってしまうんだと。

六月の十五日の山下の笠野のお天王様のおまつりの日には、近郷近在から大勢の人が集まってくるんだと。

お天王様は縁結びの神様だもんだから、ことに若いものが大勢集まって来るんだと。

カエルの娘もおしゃれをしていそいそと出かけて行ったと。

遊んですっかり帰りが遅くなって、あたりほとりが暗くなっちまったもんだから、急いで帰ってくる途中、近道すっぺと思って、水神沼の前を通ったと。

ちょうどその時、沼の主の大蛇が顔を出したと。大蛇は一目でカエルの娘に惚れちまったと。

「おい。カエルの娘。俺の嫁になって水神沼で一緒に暮らさねが」

「やんだ! おめぇみでなにょろにょろした男はやんだ!」

カエルの娘は一目散に逃げたが、大蛇はあきらめきれずに追いかけてきたと。

「おれの嫁になれ~~」

「やんだ!」

「ほだごと言わねぇで嫁になれ」

「やんだ」

「やんだくても無理やり嫁にすっと」

「やんだ」

カエルの娘は必死になってぴょんぴょんと跳ねたども、大蛇は追いかけてくるんだと。

やっと木崎まで逃げてきたども、木崎川の前で止まってしまったと。木崎川は幅広くて流れも速い。カエルの娘がなんぼ頑張って跳ねても、川を飛び越えることはできそうにもなかった。

大蛇は追ってくっぺし、飛び越されねぇべし、カエルの娘が困っていると、そこさ山居の雄カエルが一匹出てきて

「早くおぶされ」

っていうんだと。そして娘カエルを背中に乗せると、木崎川をぴょ~~んと飛び越えたと。そして沼倉まで無事に届けてくれたと。

今度は娘カエルは、山居の雄カエルに一目ぼれしたと。そして山居の雄カエルとめでたく結婚したと。

やっぱりカエルはカエルっていうことなんだべな。

一方、振られてしまった大蛇。カエルの娘のことが忘れられなかったと。

ほんで今でも蛇はカエルを見つけると

「嫁になってけろ」

と追いかけてくるんだと。

新地語ってみっ会『新地の昔話』
(新日本文芸協会)より