機織石と姥神神社

原文

今から三百年も前の話だなィ。鮫川の村境に強滝という名所があって、その少し東に行ったところに「おっけのくぼ」と言われているくぼっこがあって、そこは石井草に行く近道になってんのなィ。そのあたりに伝えられている話なんだよなィ。

その昔、強滝の川の中ほどに機織り石という二間四方もある平らな大石があったど。このでっけい石の上に、毎晩のように夜中になると怪しい火が灯って、機を織る音が「キリシャン、キリシャン」と聞こえてきたんだど。道を通る人達が立ち止って確かめようとすっと、不思議なことに灯りと共に機織りの奇妙な音も聞こえなくなり、灯りも消えてしまったど。薄気味悪くて、夜更けにはここを通る人さえいなくなっていったど。

この話を聞いたある狩人が、

「それは魔物の仕業であっぺぇ」と言って、ある夜、灯りを目がけて鉄砲を一発射ち放ったところ、その音と共に山の谷間にこだまし、何処へともなく消え去ってしまったんだと。

この土地の者たちは、その不思議さと奇怪な噂に薄気味悪くて、身の毛もよだったど。その頃、前田より石井草に通じる近道があってなィ、その途中の山の中腹に珍しい大岩があって、その岩の下からかすかに聞こえてくる音が全く同じ音だったもんで、ここに移ったもんだと土地の人達は信じたんだと。噂は噂を呼んで、この近道も夜になっと人通りもなく、皆、ぱったりと通らなぐなってさびしい所となってしまったど。

この困った話に土地の人らは、魔物のたたりだから機織りの主を姥神様として祀ろうと衆議一決、その祠を建てることにしたど。

ちょうどその頃、村中に頭が痛い悪い病気が流行り、村人が大変悩まされていたど。それで、風の守護神として姥神神社と名付け、当時、風殿というお宮を作って、お茶を供え、信仰したど。そしたら悪病もなくなり、機織りの音もいつとはなしに聞こえなくなっていったど。

又、姥神神社のお茶を借り受け、煎じて飲むと万病の妙薬となって、いかなる悪い風邪でも治ったと言われているんだど。

その後、木造のお宮を建て、宮の周りにはお茶を供える竹筒の数の多さに、信仰者の多かったことが偲ばれたど。そして昭和三年、村人の寄付によって石のお宮を建てて、今でも毎年八十八夜の次の日を祭日として近くの人達が集まり、お茶を供えて煎じ、お茶会を催しているんだどなィ。

さめがわ民話の会『鮫川のむかし話』
(鮫川村教育委員会)より