中村の蛇桜

福島県河沼郡柳津町

昔、中村である老婆が亡くなり、弔いがあった。葬式には幾十人もの人が参列して野辺送りの列が雨の中進んだ。ところが、その参列がある樹木の生い茂った小高い丘に来た時である。風雨が強くなり、その丘のひときわ大きな古桜に一丈余りもある大蛇が巨体をくねらせ、老婆の棺を巻きあげんばかりだった。

これは一大事と、先頭を行く和尚が一心に祈念唱名したが、まったく通じず、大蛇はますます猛るのだった。参列からは、恐怖のあまり逃げ帰るものもあり、皆は仕方なく大蛇のいる丘を避け別に葬列の道をとり、夜ひそかに棺を埋葬した。

これ以来、土地の葬列はこの丘を避けるようになって今に続いているそうな。伝えて「中村の蛇桜」といって、当時の桜の曾孫の代かどうかという桜の木が倒れた時は、まさに蛇桜の通りの面影であったという。

あかべこさくら会『会津やないづの昔話』より要約

猪倉野の中村だろうか。桜というのはもうわからないが、曾孫の代の桜が倒れたというのだから、蛇桜が現存するわけではない。葬列の棺中の亡骸を奪うというと火車がよく知られ、猫だというが、竜蛇もまま葬列にちょっかいを出す。