半田沼の赤べこ

福島県伊達郡国見町

義経の頃、半田山の峯を通って吾妻街道というのがあり、金売吉次が金銀財宝を赤べこにつけて往復していた。しかし、ある時足を滑らせて赤べこが半田沼に入ってしまい主になったのだという。その半田沼には地下を通る水路があって、塚野目の小さな沼に通じていた。

塚野目に桜姫とも呼ばれるおしのという美しい娘がおり、半田沼の赤べこは凛々しい侍姿になって、おしののもとに通った。そして、ある夜ついにおしのは嫁に行ったという。もっとも、さらわれたというようなもので、村は大騒ぎしておしのを探し、半田沼の縁に履物があるのを見つけたそうな。機を織る音が聞こえたともいう。

そこである者が半田沼に潜ってみると、おしのがいて、自分はもう魔物の嫁となったので帰るわけにはいかない、といった。潜ったものが奥座敷を覗くと、それはもう大変な赤べこが大いびきで寝ていた。

おしのはお礼返しもできないから、せめて地元の役に立つよう、日照りの時に皆で来たら雨を降らせる、といった。そこには何代目かのにしき桜というのがある。おしのは十七か八だったろうが、花を咲かせることなく終わったので、その桜も花を咲かせない。塚野目では今でも女の子にはおしのという名はつけないことになっている。

国見町教育委員会『国見の民話』より要約

半田沼は国見町の南の桑折町となるが、話の塚野目という所が沼から東北新幹線などはさんで東側国見町内となり、そちらの伝説ということで、国見町の扱いにした。小沼は「たんにぇ」と俗にいう場所にあったというが、不明。