この小坂地区に、大きな木が三本あったんだと。
一本は、宗返山の入口にあった大きいケヤキ。もう一本は大ソネ。あとの一本は、ほれ、阿部林右エ門様の側にあった大きな松の木。あそこんとこさちちゃこい神様あっぺ。これは、あの熊野様(泉田)んとこさあった松の木の話なんだが。あの熊野様んとこさ、うんと大きい松の木あったんだと。
その木、うんと大きい木なんで、夕方になっつうと、ここら辺りから、ずっと、山崎・藤田あたりまで、日陰になったそうなんだ、木が大きいためにな。
その頃、そこには、三軒しか家がなかったそうだ。だれだか、今では、どこの家だか判んにぇげんちょ。その中の一つに、娘とおっかさんと暮してる家があったんだすけ。ある時、娘が言ったんだそうだ。
「毎晩、きれいな若い衆が、おれとこさ来る」
そしたら、おっかさん、
「ほんじゃらば、晩に来たらば、その糸団子作って、針で、こう裾、一針縫ってやってやれ」
って、そう、おっかさん教えたって。
そこで、娘、おっかさんに言われた通り、来たから、縫ってやったんだと。
そして、翌日、おっかさんと二人で、糸、たどって行ったれば、ころころ、ころころ転がってって、そしてその、松の木からぶら下っていたっつう。
「あっ、こいつは大蛇だ」
そこさ、大蛇住んでつうのは、皆、ほの知ってたがんだ、この辺で。
「そいじぇ、体に異常はないか」
って、いったれば、
「ちっと、腹、おかしい」
と言う。
そんだらばって、こんど、おっかさん、しょうぶ取って来て、湯沸かして、入れたっけ、蛇の子、ぞくぞく出たって。
そういう話なんだ。
ところが、こんどは、その松の枝で作った、まな板あんだ。これより大きいやつ(一メートル近く)阿部林右エ門様に、今、あんがんだ。
そして、それから、ここで、その当時から、しょうぶ湯、五月節句のしょうぶ湯つうのあるんだが、魔除けになるからってな、陰干しにしとくんだ。
小さい時、おっかさんに教えらっちぇだ、世間にいくらもある話だけどない。
その松の木、切ったあと、たたみ、五じょうも敷かっちゃどいうな。(小坂 朽木松吉)