蛇なめ石のこと

原文

布川村のある豪族が大邸宅に庭園をつくることになり、数十人の人足を駆使して、さまざま大小の石を邸内に運んでいた。

その中の一つ、これは小手姫さま御前堂近くの川原から運んでいった大石であるが、邸内の門にさしかかったところ、どうしたものかそれより後にも先にもビタとも動かなくなってしまった。

数人の頭株の者が集り鳩首相談をしたが、なんの名案も浮んでこない。思案に余っていると、一人の真白いひげの老人がやってきた。老人は、石を眺めたりすかしたりして見ていたが、「どうもこの石は蛇に関係がありそうだ大蛇がなめた形跡がみられる。大蛇は女の髪の毛を好むから、髪の毛の網をかければ動くかも知れん。」と教えて何処ともなく立去っていった。

やがて寄せ集められた女の髪の毛で一本の太い網がよられた。「それ引いてみろ。」と掛け声もろとも、今までビタともしなかった大石がグラリと一回転し、後はスルスルと邸内になんの苦もなく運び込まれたという。

それからこの石のことを「蛇なめ石」と呼ぶようになった。

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月舘町教育委員会『月舘町伝承民話集』より