大蛇きれいな女房に化ける

原文

むかしむかし、けちんぼの男がやもめぐらしをしていたんだどぉ。ところがある日、野良で働いていたら、その辺にみられないようなあかぬけのした旅仕度の娘が通りすぎたどぉ。

そうして旅のものだが今晩とまるあてがないので一晩やっかいになりたいと願うので、むさくるしいが、一晩位はよかんべいと思って承諾したんだどぉ。夕方 家に帰るとその娘はかいがいしく仕度をかえて台所をするやら、ふき掃除をするやらで、家の中が見違えるようになったんだどお。娘はいっこうにおいとまする様子はない。一晩、二晩とついついいっしょにくらすことになっただどぉ。

やがて娘は女房にしてくれるなら機織りが上手だから、機を織って金もうけをさせてくれるという。男はやがて娘との仲も深まり、ちぎりを結び喜んで女房にしたという。

その織物が近所の評判となり、このけちんぼ男はいつかくらしがよくなっていったが、さて一つ不審なことに米びつの米の減り工合いがどうもおかしいことに気づいたんだどぉ。それである日、仕事に行ったふりをして戸のすき間からのぞいたら、一匹の大蛇がどぐろをまいておにぎりをペロペロのんでいる凄いありさまをみてしまった。男は、さてはあの娘は蛇だったのか、蛇につけねらわれたと思うとゾッと寒気がして、このままでは狂い死により外はないと思案にあまったんだどぉ。そうして仕事などもう手がつかず、めしものどを通らないほどで、鉢巻きしてドッと床についたんだどぉ。女房はまめまめしくしてくれたが一たんすさまじい正体を見てからは、二度と近寄れない。それを知った女房はカッとなって

「正体をみられたか。くやしい。生かしておくものか。」

と恐ろしい大蛇の形相となり、ひと呑みにしようと追いかけてきたんだどぉ。

男はほうほうのていで寝床からぬけだし、どんどん走ってゆく。そうしてあわやひと呑みという途端に、道の傍らに生えていたよもぎとしょうぶを夢中でつかんで蛇に投げつけたんだどぉ。蛇はぐったりしおれて姿を消してしまった。それが五月五日の節句の日だったので、屋根のひさしによもぎとしょうぶをさして魔除けとしはじめたんだどぉ。

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月舘町教育委員会『月舘町伝承民話集』より