機織伝説

原文

相馬郡上真野村じさ原の山神社の前にある滝の近くに、昔、二堂という人が住んでいた。或る時二堂は、この滝の上にある桜の木を鉈で伐ろうとしたら、一寸したはずみで鉈を滝の中に落してしまった。困った二堂が水中をすかしてみると、中に非常に美しい乙姫様が機を織っていて、二堂に向ってこう言った。

「折角私が花見をしていたのに、貴方がその桜の木を伐ろうとしたから鉈を取りあげたのです。これからしなければ返してあげましょう。」

そう言って返してくれた。そして「貴方が帰ったならば、私がここに居る事を決して口外してはなりませぬ。」と言われたので、二堂は誰にも言わないことに決心した。

ところが我が家に帰ってみると、その日は人々が大勢集まって、ちょうど自分の三年目の法事をしているところだった。そこへ二堂が帰ってきたものだから、人々は驚き怪しんで、何処に行ってきたのか余りうるさく聞くものだから、とうとう皆に負けて今迄の事を語ってしまった。すると今迄元気だった二堂は、その場で急に死んでしまったという。

その事があって間もなく、すぐ前の道を機織道具を背負って通った一人の女があったという噂がたった。なお、この乙姫様は、実は大蛇だったと言われている。(『相馬伝説集』)

みずうみ書房『日本伝説大系3』より