その昔、米五町にまつられている飯綱蛇王権現様の社の上に一戸の家があって農業を営んでいた。その家の裏山に白い蛇が住んでおり、時々姿を表すので、主人が目ざわりと白蛇の住む穴の中に熱湯を注ぎ殺してしまった。
すると、その翌日から主人を始め、毎年の如く家族が病気になり、死に絶えて、今は家もなくなってしまった。
私は子供の頃から、祖父兵吉より、白い生き物を殺すな、と聞いている。
現在の米五町に飯綱蛇王権現があるのかどうかは不明。地図上などには見えない。鎮守社は八幡神社のようだが、合祀されたものか。中通りには、こういった「蛇王」という名がよく見える。同二本松市の竹ノ花なる土地にも同様の蛇王権現の話があり、福島市上名倉には蛇王の字があるし、月舘の御代田には蛇王山もある。
蛇王は蔵王の転である可能性があり（那須黒羽には実際そういうお宮がある）、中通りのこれら蛇王はどうであるのか、というのは、その頻出度からいって重要だ。これらが蔵王であった確認が取れると、この話を代表するものになるだろう。
また別の点では、熱湯をそそいで蛇を殺し、意趣返しを受けるという古典的な筋であることも目を引く。これは『古今著聞集』に見る歴史のある筋ではある（「青大将のむくい」なども参照）。