子安観音

原文

昔、都の将軍が奥州に来る途中この地に宿をとった。ところが宿の娘は美しく、将軍は一夜の情を結んで、翌朝発った。

その後、将軍はその娘を忘れることができず、再度訪れた。娘はすでに身ごもり、明日をも知れぬ身となっていた。娘は将軍に、あなたとの一夜の情けでこのような身となったが、しばらく留まって産屋を建ててほしい、そして産屋は決してのぞいてはならないと告げた。将軍は留まって、従者に産屋を建てさせた。そのうち月満ちて男子が誕生した。

しかし、固い約束にもかかわらず、将軍がこっそりのぞいたら、大蛇が赤子をあやしていた。将軍は戸板を破って入ると、大蛇はたちまち女にかわりこう告げた。わたしは無行沼に住む龍女である。見破られては沼に帰らねばならない。わたしには二つの宝珠がある。一つは赤子が泣くときにしゃぶらせれば、乳の代わりになってよく育つ。もう一つは沼に投げ入れると、たちまち水が引いて自由に歩けるようになる、といって姿を消した。

将軍はさっそく一つの宝珠を雌沼に投げ入れると、たちまち水は引いて、雄沼に通じる道も楽に通れるようになった。そして、将軍は赤子を抱いて都に帰った。もう一つの宝珠を赤子にしゃぶらせておいたら、よく育った。

やがて赤子も十三歳になり、母恋しさに会津の里を訪ねた。しかし、母はいないと聞かされ、せめて夢にでもと祈った。するとある夜、母が夢枕に立って、今は無行沼に龍女となって住んでいるので会えない。せめて母の願いとして清瀧寺の境内に観音堂を建ててほしい。すればこの世の子どもが丈夫に育つよう御利益を授ける、といったら、たちまち夢は消えた。

現在の清瀧寺境内の子安観音堂はこれで、子どもの守り観音として信仰されている(『みちのく田付物語』:岩月町入田付 清瀧寺境内)。

『喜多方市史6 民俗』より