昔、ある男が長尾村の自分の家に帰ろうと、村の南にある若宮八幡宮の前の堀にかかっている丸木橋を渡った。渡り終えた時、橋がぐらっと動いたので、後ろを振り返って見ると、丸木橋と思って渡ったのは、若宮八幡宮を七回り半も巻いた大蛇の尾であった。
男は腰を抜かさんばかりに驚き、さらに大蛇の毒にあてられて目もよく見えなくなり、ようやく家にたどり着いたが、間もなく息をひきとってしまった。
若宮八幡宮は、大蛇の死骸の上に建っているといい伝えられている(『喜多方の民話と伝説)
(豊川町長尾)
このような田中の塚森、あるいは円墳、塚などの上に神社がある場合、その社地そのものが蛇のとぐろと見られる例というのはままある。
多くは諏訪・弁天などで、八幡さんが直接的に竜蛇神とされることは少なかろうが、もともと竜蛇を祀っていた塚森が八幡に置き換わった、ということはあるだろう。この長尾の若宮八幡の話は、そういうった事例の可能性がある。
一方、武家の大蛇討伐伝承に由来して、大蛇の死骸などを葬った地に武家の守護である八幡を勧請した、という筋もあるように思う(「竜海」など)。八幡が竜蛇と関係するのはその二つの筋が多いだろうか。