頭の三つある大蛇の話

原文

昔し昔し 今泉の舘山という岩山に、頭の三つある大蛇がすんでいたそうな。

毎月、村人の牛と鶴を三頭三羽ずつ喰っていたので、村の人々は大変困っていたそうな。

大蛇が怒ると、川や池や田の水を飲み干してかんばつにしたり雨を降らせて大洪水にしたから、大蛇を大魔神のように恐れていたんだわ。

それでもこの大蛇は、白方神社のお使え様で、舘山を七巡り半もするでっかい蛇だから、どうにもしようがなかったんだよ。

ところがある年の秋の夜明に、村の組み頭が飼っていた上組の鶴と、下組の鶴が二羽おりをやぶって南の空へ飛んで行ったんだ。

それから幾月か経ったある寒い雪の降る夕方に、一人の旅の坊様が村にきて、名主様の家にとめてもらって、その晩、恐ろしい大蛇の話をきくと、よく朝暗い中に神社へお参りし社の後の大岩を、持ってた金の五鈷で

「おんあぼきゃあー」コン コン カン

「びーろしゃーなー」カン カン コン

「まかぼーだ らーまに」コン コン カン

「はんどまちーんばら」カン カン コン

「はらばーりた、や、うんー」コン コン カン カン カン カン カン カンとたたいたんだ。

すると、大岩がバリ バリ バリーとものすごい音を立てて二つに割れた。中から大蛇がガーと大口を開けて飛び出し、天へ向ってとび上って消えた。

すると、こんどは大きな岩がドスーンと空から神社の庭に落ちてきた。

これからというものは、今泉地方の村々の人々は大蛇におどろかされることがなく、平和にくらせるようになったそうな。

大蛇は大石になっていまでも神社の庭にあるそうな。

旅のお坊さんは弘法大師様という、えらいえらいお坊様だったそうな。

岩瀬村文化財保護審議会『ふるさと昔話』より