物を食わぬ嫁さま

原文

むかし、ある所にけちな男が住んでおり、この男には嫁さんがおりませんでした。男は常に「嫁はご飯をたべるだけで何もしないし、遊んでばかりいるからいらない」といっていました。ある日この男は嫁さんをもらいました。本当にご飯をたべない嫁だったので「うちの嫁は何も食べない。それは、それは一生懸命に働く」といって自慢しました。

ところが毎日男が山に柴刈りに出かけているのに、けむだしより煙が「モクモク」と立ち登っていました。そして男が帰宅してみると米びつが空になっており、それをふしぎに思い近所の人にたずねてみました。すると「お宅の家からいつも煙が出ています」と話してくれました。

それで男は柴刈りに出かけたふりをして帰ってみると、家の雨戸はすべてしめきってありました。そこで窓よりそっと家の中を見ると、嫁さんの髪の毛の中に目があって、頭の付近が顔になり、口が大きい大蛇になっていました。そして米をたいてご飯をつくり、できたばかりのご飯をむすびにして、大きな口に「ぽーん、ぽーん」と投げ入れていました。

ところが運悪く男は大蛇に見つかってしまいました。大蛇は正体がばれたので男を殺そうと思い、男が風呂に逃げ入ると風呂桶ごと七まわりに巻きつけて、堤の中に投げようとしました。しかし堤の付近に大蛇の一番嫌な菖蒲があり、逆に大蛇の方が驚いて逃げ出しました。

それから後、大蛇はくもになって家にやって来て、ここでも殺そうとしましたが、男が刀でくもの糸を切り、くもを殺しました。これで男は安心して生活することができました。

五月五日の節句の日に菖蒲を屋根の軒に飾るのは、大蛇が嫌いなので大蛇よけにするといわれています。

いわき地方史研究会『いわきの伝説と民話』より