物を食わぬ嫁さま

福島県いわき市

昔、けちな男がおり、嫁は食うばかり遊ぶばかりなのでいらない、といって嫁がなかった。そこに、本当にご飯を食べない娘が来たので嫁にした。そして、ご飯を食べない嫁がよく働くことを自慢していたが、男が仕事に行っている間は家の煙出しから煙が上がるし、男が帰ると米びつが空になっているのだった。

不審に思って、近所の人に煙が立っていることを聞いた男は、仕事に行くふりをして家を覗いてみた。すると、嫁の髪の毛の中に目があって、頭の付近が顔になり、口が大きい大蛇になっていて、炊いたご飯をむすびにして、大口にポンポン投げ入れていたのだった。

男に覗かれていたことを知った嫁は、大蛇となって男が逃げ入った風呂桶を七回りに巻き、担ぎ出して堤に投げ入れようとした。しかし、そこに大蛇の嫌いな菖蒲があったので、大蛇が驚いて逃げてしまった。

それから後、大蛇はくもになって家に来て、やはり男を殺そうとしたが、男がくもの糸を切り、くもを殺したので、男は安心して暮らせるようになった。五月五日に菖蒲を軒に飾るのは、大蛇が嫌うので大蛇除けにするのだという。

いわき地方史研究会『いわきの伝説と民話』より要約

途中までは食わず女房の蛇女房型の話の典型といえ、この筋の多くがそうであるように軒菖蒲の由来ともなっている。この話が特異なのは、後段にその蛇女房が蜘蛛に化けて再度男を殺しに来ているところだ(とってつけたようではあるが)。