昔、木こりの爺が婆と娘と暮らしていた。ある時、爺は御前淵の傍で木を伐っていて、斧を淵に落としてしまった。困っていると、大きな鮫が現れ、話を聞いて爺を水中に誘い、斧を探してくれた。水中には立派な御殿があって、爺は饗応され、やがて鮫が斧を持ってきた。
しかしそれは金の斧や銀の斧で、爺はそれは自分の斧ではないと言った。すると鮫は爺の汚れた斧を持ってきて、爺の正直さを褒め、金銀の斧もくれた。そしてまた饗応されたが、帰る時になって、鮫はこの御殿のことは決して人に言うな、言ったら命はないから、と言い含めた。
爺が家に帰ると、三年の月日がたっており、爺の法要が営まれていた。そして、生きて帰った爺に驚いた人々が寄ってたかって理由を問うので、爺はついに御殿の鮫のことを話してしまった。と、途端に大雨になり、爺が一人流されて御前淵に沈んでしまったという。鮫は鰐であるともいう。(『石城水の伝説』)