猪苗代湖の龍神

原文

猪苗代湖の天神浜と、五万堂山と志田浜を結ぶところに「三把菅(さんばすげ)」といって、とても深い所がある。そこには龍神がすんでいるといわれている。

昔、湖南の秋山の舟方衆が、舟に米を満載して湖北の上戸に向った。三把菅という所は、よけて通れない所である。そこを舟が通りかかったときのこと、舟が大揺れして、湖面に吸いつけられてしまった。一同は驚いて真青になった。

「これは龍神の祟りに違いない」

といい合っても生きた心地がしない。舟は次第に沈みかけた。このままでは湖の底に引きずり込まれて溺死してしまう。そこで積んだ米俵を舟から投げ入れ、龍神に奉献し、一同は

「何とぞ助け給い。鎮ませ給い」

と祈った。すると舟が動き出し、難所をぬけ出ることが出来た。

「やれうれしや龍神様」

と一同は喜び、生命だけは助かった。

その後は、三把菅を通るときは、

「龍神様、どうか通らせ給い」

と祈る。すると水底の方から

「通られい」

という龍神の御声が聞こえるという。

菅はミノなどを作る草である。舟乗りが湖の深さを測るのに、菅を結んで舟から錘をつけて垂らしたところ、三把も使った。今の深さで九十メートルあったという。(湖南町 半沢卯右衛門)

郡山市教育委員会『郡山の伝説』より