おせんが渕と蛇ねぶり石

原文

部落の東方、栃本と糠塚の川境にある。むかし、おせんという嫁が柴木切りに山に行き、あやまって鉈を渕に落としてしまった。家に帰ったら

「鉈を取ってこい」

と叱られ、またすごすごと鉈を探しに戻っていった。時間が経って嫁が帰ってこないので家の人たちが探しに行くと、渕の底に鉈がキラキラ光っていた。その渕に道に突きでた直径十尺からある石がある。その石を蛇がなめていたという。おせんが蛇に呑まれた渕なので「おせんが渕」というようになった。渕のそばの大石は蛇が這ったかと思われる形の溝があり、蛇が石をなめていたというので「蛇ねぶり石」といわれるようになった。渕には穴があり「おはぐろ渕」ともいって、この渕の水をはらいあげないうちに雨が降るといって底が出たことがないという。「蛇ねぶり石」も道路拡張のため壊されて現在はなくなった。別説にはしいたげられた嫁が入水して蛇化したとも伝えられている。

(伝承地 田村町栃本:田村町 根本忠明)

郡山市教育委員会『郡山の伝説』より