むかし、むかし、あったどよ。
おらが村に鎌沼っつう大きな沼があっただど。
そのあたり一面ヤブが生い茂りその処々に、大きなハンの木が空を覆い、昼でも薄暗いほどで、無気味な場所だっただど。その辺一帯は、水がわいてじめじめしてでな、すこし下になると小堀になって外村の用水となっていたんだど。
この沼に恐ろしい「主」が住んでいたんだど。
毎年、六月頃になると、村の十五、六歳位の奇麗な娘をな、人身御供に差し出さないと「主」が大暴れして、村人はとても困っていたんだど。
泣きながら我が身を切る思いで、差し出していたんだど。
今年もまた、その季節になり、二人集まると、こっちでもあっちでもその話で、心配して泣くばかりで、何の方法もねえだど。
今年は、誰の娘に白羽の矢が立つのやら、寝ても眠られぬ毎日だっただと。
そんなある日、おやがっつぁまの三番娘で、年は十六、奇麗で心優しくみんなから可愛がられているおふじという娘が、
「私が、人身御供になんべ。」
と言い出したんだど。
親兄弟も大変驚いたが、おやがっつぁまは、涙をのんで、
「事が済むだどな。」
と言っただど。
しかし、村の人達は口を揃えて可哀想と泣くばかりだっただど。
そうこうしているうちに、その日が来てな、みんな涙のうちに、奇麗な花嫁姿に着飾って、なおいっそう美しくなった姿で、
「みなさん、お別れだね。お元気でなし。」
と言っただど。そんじな、村人は、鎌沼に向って送っただど。
天気は良かったが、一天にわかに雷鳴轟き、天裂け雨こぼれる如く嵐の音の中におふじさんの姿は無くなっていただど。
親兄弟はもとより、村人は泣く泣く家に帰っただど。
それから、四、五日たっての昼下がり、南西の空がひときわ明るくなっただど。
村人は、何だべと見たれば、空から前よりいっそう美しくなったおふじさんがたくさんの宝物を持って舞い降りてきたんだど。
村人は、たいへん喜んで迎えただど。おふじさんも、喜んで、
「みなさん、ありがとうございやした。私もみなさんのお陰で『主』さんから自ら進んで人身御供になって、村の災難を一身に背負ったことは立派だと褒められっち、来年からは人身御供はなくして、おふじさんの心に感謝して宝物も授けてやんぞと、宝物をこのようにいっぱい頂いてきやした。みなさんにお分けしやす。」
と話したんだど。
それから、村人から崇められ村の守神のように長く愛されてな、村中明るく平和な月日を送ったんだど。