信夫の大杉

福島県福島市

聖武天皇の御代、笹木野に大杉があり、美男子と化して村の娘のもとに通った。娘が素性を訊ねても答えないので、針糸を男の袴に刺し追うと、大杉のもとで男は消えた。その根元に針が刺さっていたので、今そこを緒針というが小針とも書く。それから男はもう来なかったという。

この大杉は大変な巨木で、田畑四万石に影をさしたので、作物ができないとして、国人たちは伐採することを公に求めた。これが許され伐り始めたのだが、夜になると木端が切り口に戻ってふさがってしまい、十日に及んでも元のままだった。

この時、トヨキ(ヨモギ)が化けて人になり、木端を焼いてしまえばよい、と教えた。これで大杉は伐り倒されたが、以来村にはこの草が生えなくなったという。

またの話に、杉の精に通われた娘の名は「おろす」といったという。娘は二児を生んだが死んだので、天戸川と須川の間に葬った。これが二児塚だという。さらに、大杉の霊が祟るのを阿部清明と芦屋道満が鎮めたという話があるが、この時杉を神と祀ったのが杉妻明神だという。

岩崎敏夫『磐城岩代の伝説』
(第一法規出版)より要約

笹木野には小針や折杉といった小字が現存し、おそらく杉が立っていたということだろう「王老杉稲荷神社」もある。ちなみに、杉妻明神も今は杉妻稲荷神社となっているようだ(福島市杉妻町)。福島城(大仏城・だいぶつ城)跡ということになる。