蛇ヶ崎

岩手県陸前高田市

昔、都から田義友という将軍が二万数千人の軍勢をひきいて気仙方面の蝦夷を攻めたことがある。小友の只出での戦いのとき、田義友将軍は討たれたが、主な家来たちが相談してその霊を箱根山の中ほどの上高地に葬ったという。この山を鳥山と呼んだ。

ところが、それから五〇年後、再びこの方面に賊がはびこる。しかるに、田義友将軍を埋めた穴から大蛇が現れ、賊に向かった。だがこの大蛇も傷ついた。出崎の背後に鶴島・亀島があるが、ここに、女沼・男沼という沼がある。大波のときはこの沼に波が入る。ここで大蛇も死んだとか。

後に、田義友公を埋めた穴から出た大蛇は、田義友の霊だろうと、この出崎に「蛇ヶ崎大明神」を祀った。(広川・村上)

『陸前高田市史 第六巻 民俗編』より

これは『日本書紀』に見る上毛野君田道(たみち・たじ・たぢ)将軍の話とほぼ同じものだ。一般的には青森県平川市の「猿賀神社」にその伝があったとする。しかし、総州や上州にその伝があったりもし、この伝説が広く舞台を変えて語られていたらしいこともうかがわれる。

そのようなことで、この田義友の伝説は田道将軍伝説の一派生ということでそちらからは参照される話となるだろうが、もう一点、土地の蛇抜け、蛇走りの伝説との関係も見ておきたい。