鱗の小判

原文

さいの大きな家にじさまとばさまと仲よく暮していた。ある日のこと、この仲のよい家を綺麗な旅の娘さんが一人訪ねて来た。じさまとばさまは大変喜んで、わらじをぬがせ家の中に入れた。其の晩は娘さんと三人でよもやまの話をして、次の日から娘さんはじさまとばさまと一しょにこの家で働くことになった。娘さんはまめまめしく働くので、隣近所の評判もよく、一家はほんとうにしあわせに暮した。

お天気のよいある日、其の娘さんは永い間大変お世話様になりましたと、お金をどっさりじさまとばさまへあげて、この後も幸福に暮すようにと旅支度をして別れを告げて立って行った。じさまとばさまは不思議なこともあればあるもんだと思って、其の娘さんの後をつけて行った。余程行った村のはずれの沼のほとりで娘さんは立ち止った。じさまとばさまは娘さんに見つからないようにして見ていると、娘さんは着ていた着物を一枚一枚ぬいで裸になった。じさまとばさまはなおも黙って見ていると娘さんの体は大きな蛇に変って行った。そして其の体には鱗がついていなかった。鱗のついていない大きな蛇体! その大きな蛇はやがて静かに夕日の落つる頃沼の中へ消えて行った。じさまとばさまは家へ帰って、娘さんからおくられた金を出して見た。それは鱗の小判であった。娘さんはこの沼の主であることがわかった。(さい p.12)

 

奥本静一『さいのむがしこ』

 

下北郡佐井村:蛇女房-蛇娘型・表題話

『日本昔話通観2』より