鱗の小判

青森県下北郡佐井村

さいの大きな家に老夫婦があり、仲良く暮らしていた。そこへある時旅の娘が一人来たので、老夫婦は喜んで歓待した。そしてそのまま娘はその家で働くことになり、三人でいっしょに暮した。娘は大変働き者で、近所の評判も良く、一家は幸せに暮らした。

ところが、ある日娘は長い間お世話になりました、といって、お金をどっさり置き、今後も幸せに暮らすよう老夫婦に言うと、また旅に出てしまった。老夫婦は不思議に思い、娘の後をつけると、余程行った村の外れの沼の前で娘は立ち止った。

そして、着物を一枚一枚脱いで裸になると、その体が大きな蛇に変わってしまった。しかも、蛇の体には鱗がついていないのだった。鱗のない大蛇は、夕陽の落ちる沼の中へ消えていった。老夫婦が家に戻って、娘のくれたお金を見ると、それは鱗の小判であった。(奥本静一『さいのむがしこ』)

『日本昔話通観2』より要約

佐井村は下北半島の北西側。そのうちのどこの話なのかは不明。『通観』上は蛇女房に分類されているが、微妙なところ、といえる。津軽には大歳の客の話のような、異界の者が金銀を残し去る、という話がまことに多く、これもそういった話の一端と見える。

家を守護する竜蛇や童子と話の向きが違う点に注意したい。そういった存在は、去ることによって長者家などは没落するのだが、大歳の客の話の型では、去ることによって富が残されるのだ。

蛇女房とした場合はこの佐井の話も、正体を見られ、蛇の娘が去る時点で普通は没落に向かいそうなものだが、ここではそこから富が生まれている。この二つの流れを意識しておくことは、このあたりの話を見るうえでかなり重要だろう。