薬師さまと片目の蛇

原文

むかし、妙村に仲のよい侍夫婦が住んでいた。ある日、妻は松館川のほとりで子どもたちにいじめられている一メートルほどの白い蛇を助けた。

その後、隣の国との戦が始まり、侍は家来を連れて戦に出掛けた。妻は夫の無事を祈って、毎日毎日、丹内の薬師さまに願掛けをした。

戦いは終わった。この戦いで多くの侍たちが戦死したり、怪我をした。妻の願掛けがかなって夫は帰ってきた。だが、夫の左目に矢が突き刺さったままで、大怪我をしていた。妻は苦しむ夫の目から矢を抜くことが出来ず、医者を呼んで治療してもらったが治らなかった。そこで妻は、毎日毎日丹内の薬師さまに願掛けをした。ある日の夜、妻の枕元に丹内の薬師さまが立って申された。「わたしは五年前に、あなたに助けられた白蛇である。お前は信心深いので、願いをかなえてあげよう。丹内薬師堂の床下から湧き出ている清水で、主人の目を洗いなさい。元の目に戻るであろう」と告げた。

次の日、妻はいわれた通り、夫を丹内の薬師堂へ連れて行って、清水で左目を洗ったら矢がスーッと抜けて、目が治り元通り見えるようになった。

村人は不思議なことに気付いた。薬師堂の周りにいる蛇が、みな左目がつぶれていたのである。おそらく、蛇が侍の身代わりになったのだろうといわれた。それから、丹内の薬師さまは「目の病の神さま」として信仰された。今、丹内の薬師さまは明久山傳昌寺に祀られてある。

『八戸市史 民俗編』より