安兵衛さまの話

原文

昔、津軽に、とてもけちんぼうな安兵衛という人がありました。病気になったので仕方なく医者にかかり、薬代を払うのがおしいと思って、十二月の薬師講までのばしていました。

いよいよ薬師講になりましたので、安兵衛さまはお金を持って出かけて来ました。大きなふろしきをせおって山中を歩いてくると、道端でかりうどが鉄砲で一羽の鳥をねらっていました。安兵衛さまは急ぐこともないのでその様子を見ていると、かりうどの後に大きな蛇が一匹いて、一のみにしようとねらっています。そしてとうとうかりうどを一口にのんで腹をふくらませ、そのまま草原に入り、なにか緑の草をペロペロなめはじめました。すると蛇の腹が、しなやかになって再び出て来ました。

安兵衛さまは、「これは不思議なことだ。吾も薬師講に招ばれて、おそばをごちそうになっても、緑の草の用意があれば大丈夫だ」と考えました。そして茂みの中から緑の草を何本もつんで、たばねて腰にさげ、急いで行きました。医者は喜んで迎え入れ、お金を受け取って、それから何ばいもおそばをごちそうしてくれました。安兵衛さまは、よくばってたくさんたべたので、お腹がはりさけそうになりました。

「われ、一寸、はばかりサ行ってくるハデ」

とことわって外へ出て行き、かくしていた緑の草をこっそり出してなめました。

その後いくら待っても、安兵衛さまが帰って来ませんので医者は心配になり、外へ探しに行きました。しかし姿が見えません。ただ、けやきの木の前に手織の羽織が一枚あって、その上におそばがあがっていました。緑の草はおそばがとけず人の身がとける草だったのです。安兵衛さまはとうとうとけてしまいました。

はなし 弘前市紺屋町 一戸ひで(六五)

斎藤正『[新版]日本の民話7 津軽の民話』
(未來社)より