昔、ある所に、一人のあん様がありました。ある時、夜中に町へ仕事にいって、家に帰って来ました。部屋へ入ろうとすると、天井から一匹の蜘蛛がおりて来ます。夜、蜘蛛が家に入ってくるのはえんぎが悪いといわれているので、あん様は顔をくもらせました。あん様は、
「蜘蛛、蜘蛛、今晩なにしに、おりてきたのだば」
と言って、蜘蛛を火にくべようとしました。すると、蜘蛛が、
「どうか、あん様、助けでけ」
と声をかけました。あん様は気の毒に思って、
「そんだら、今度から出てくるな」
と言って放してやりました。蜘蛛は、はりのかげにかくれました。
それから四、五日すぎました。ある晩、一人のきれいなあね様がたずねて来ました。出てみると、
「われ、暗ぐなって、行ぐどごなぐなったハデ泊めでけ。そしてお前さまの嬶ねしてヶ」
と言います。あん様は貧乏ぐらしをしているので、たべ物もないからことわりましたが、
「それでもよいハデ」
と言って、とうとうあん様の嫁さんになりました。
次の日からこの嫁さんは、機を織ってかせいでくれました。その織物は大へんりっぱで近所の人もほしがります。このことがいつか殿様のお耳に入りました。ある時、殿様から、
「千反の織物を織ってお城へ納めよ」
という難題がもちこまれました。あん様は心配して、嬶に相談をしました。すると嫁さんは、
「それはただ事でごえへんが、吾、千反織って続げるハデ」
と言ってから、
「それでも、私の機、織るどこ、見ねでヶ」
と言いました。そうして、毎日三度のごはんは機小屋の入口の所に置いてもらうことにしました。次の日から織りにかかりました。幾日も機小屋から出てきません。あん様は毎日ごはんをとどけて帰っていました。ある時、約束を破ってこっそりのぞいて見ました。すると、恐ろしい大きい蜘蛛が、ごはんの入っているおはちの中に首を入れて、食べながら機に行って糸を出し、織物をおっていました。あん様はびっくりして、
「あっ」
と叫びました。蜘蛛はふり向いて、
「とうとう、見られてしまった。なんぼ見るな見るなテしても、お前さんが見でしまたし」
とつぶやきながら、織った千反の反物を置いて、その家からいなくなってしまいました。嫁さんは、いつか助けた蜘蛛だったのです。
はなし 弘前市石川字大沢 桜庭もと(七七)