白がぶヶ子

原文

昔、甚吉という夫婦がありました。働いても、働いても貧乏で、年も七十の坂をこしました。この老夫婦には子供が一人もなく、毎日さびしく暮していました。今年も年の瀬をむかえましたが、お金がないので、楽しい年越しをすることが出来ません。甚吉は山へ松竹を伐りに行くことにしました。

「松竹、買えへんな、松竹、よごしな(いりませんか)」

と村や町をふれて歩きましたが、その日に限って、一本の松竹も買ってくれる家がありません。困り果てて松竹を橇につけたまま、とぼとぼと帰って来ました。途中に海に流れる川があって、橋がかかっていました。

甚吉は、橋の上から松一本、竹一本と流していましたが、おしまいに橇につけたまんま、

「竜宮様、これ、おつかいなすって下さいへ」

と言って、水に投げ落して家へ帰りました。

甚吉はうす暗くなった道を、うしろも見ずに帰って来ました。

途中町の角まで来ると、うしろをぱたぱた、ぞうりの音をさせながら、ついてくる者があります。やっと甚吉に追いついて、

「もしもし」

と声をかけました。見ると小さい子供が一人立っていて、

「私は竜宮から来た者です。おめェ様でごすか(ございますか)、門松を奉ったのは。お蔭で、竜宮ではお正月を迎えることが出来ますじゃ。何かお礼をしたいんですが、家に帰ったら、よく家の中を探してみせや(ごらん)」

と言ったかと思うと、そのまま、すたこら、すたこらと、うしろも見ずに姿を消してしまいました。

甚吉は不思議に思って、だまってそのまま、家へ戻ってきました。家には婆様が帰りをまっていました。甚吉は今日のことを一部始終話し、二人で家中を、くまなく探して見ましたが、何も見あたりません。おしまいに天井からさがっている火棚の上を見ますと、全身まっ白な子供が、ほしてある薪の上にのっかっていました。その子供は、

「私は、竜宮からお礼にあがった白がぶヶ子です」

とかわいい声で申しました。白がぶヶ子は、この家の子供になり、老夫婦の家は急ににぎやかになりました。今日も海からとれたお魚を、どこからか出しては年越しの食膳をにぎやかにし、お米をどっさり米びつにうんでは、二人をびっくりさせました。こうしてそれからというものは、この老夫婦に幸福が長く続きました。

はなし 弘前市田茂木町 斎藤タカ(七六)

斎藤正『[新版]日本の民話7 津軽の民話』
(未來社)より